12月
26
gigaスクール構想に対する期待と課題提起
三瓶和寿
視覚障害・フリーランス・つどいグループ代表
- 初めに
皆さんは学校生徒さんに一人一台のパソコン/タブレットを整備する国家プロジェクト、「gigaスクール構想」をご存じですか?
以前に比べると求めやすくなったICT機器を大量導入し、教育に活かそうとする構想で、全国の小学生・中学生・高校生が対象。
もちろん特別支援学校も対象です。この施策については、実施が急ピッチだったこと。一人当たりの端末代が\45,000と視覚障害児(者)のニーズを十分カバーしていなかったこともあり、一律iPadを整備するものになっているようです。
筆者が考えていることをまとめたこの草稿をお読みいただき、よろしければコメントいただければありがたいです。 - 筆者の基本的な立場
私は、埼玉県立特別支援学校塙保己一学園理療科教諭でした。
自他ともに認めるICT好きで、全盲ですが、校内のパソコン、iPad、Wi-Fiルーター、点字ディスプレイ、点字プリンターなどのメンテナンスを好んで担当してきました。
勤務校でも国の施策、県の施策で、機器が比較的整備が充実していました。
ですから、基本的にICT推進の考え方を持っています。 - 特別支援教育分野におけるICT技術の展開
ICTはいわゆる「流行」ものです。
使える技術も得られる情報も常にウォッチしていかないと陳腐化してしまいます。
かつて、都道府県ごとの独自施策で学校ごとに、生徒用パソコンが整備されていた段階から、国の施策で、安定的に生徒共用パソコンが整備されるようになりました。
Windowsパソコンのノウハウは比較的手に入れやすくなり、標準的な教育実践ツールになっていると思います。一方、近年開発が進んできたスマートフォン・タブレットは、基本ソフト(オペレーティングシステム)が障碍者対応を装備したものとして登場し、アプリもその障碍者対応に対応したものが少なくなく提供されるという特徴を持っています。
教育分野での応用に向け、先行的に研究を積み重ねられた、筑波技術大学の皆さんや、東京大学先端研の近藤先生、広島のうじま先生、UDブラウザの中の先生などのご尽力を背景に、iPadの視覚障害教育分野での実践が広がったこと、障害児(者)教育の関係者も含めて、ユニバーサルな「電子教科書」作りの標準化が進められたことを背景に今日に至っていると認識しています。
一方、このような中でのiPad導入をどうとらえ、現場でどう展開するかの丁寧な実践交流は、残念ながら少なかったと思います。 - デバイス・ソフトウェアの選定の優先度
ICTを実践的・日常的に活用するのは、中学部、高等部(専攻科を含む)なのだと思います。
そこでの、iPadは主たるデバイスなのかどうか?
まだまだ、Windows10パソコンが第一選択なのではないでしょうか?
「当面は、共用パソコンでしのいでほしい」との声が聞こえてきそうです。ただ、実際に生徒さんの端末購入を支援してきた実感からすると、メインに使うデバイス(まずはWindowsパソコン)を手に入れたり使いやすく調整することが優先され、iPad(全盲者ではiPhone)は余裕があればのセカンドデバイスのようです。
- 最大公約数としてのgigaスクール構想の制約の中で、現場のニーズをどう反映するか
新型コロナの影響で、思っていた通り、作業が急ピッチですすめられ、整備がおおむね完了しているようです。
現場での実践を県をまたいで共有され、大いに広めていただくことが、せっかくの機器を無駄にしない賢明な方法だと考えます。一方で、実践的に使われるデバイス・ソフトウェアが軽視されることが懸念されます。
Windowsパソコンのスクリーンリーダーが盲学校に十分に導入されていないとすれば、深刻ですし、ユーザーごとにきちんとライセンスを購入され、対応いただくことが求められると思います。
また、近年注目されている無料のスクリーンリーダーについても、各学校への大規模な導入に当たっては、有償のサポートを受けることも必要になるでしょう。 - 福祉制度の積極的な活用・および拡充を市町村単位でフォローすることの重要性
ご存じの通り、重度視覚障害児(者)に対しては、障害対応のソフトウエア・ハードウエアに対して「日常生活用具/情報通信支援用具」で給付していただくことが可能です。
また、点字ディスプレイについても、視覚単一障害でも給付いただける市区町村が増えてきました。
これらは、地域生活支援事業といいう制度上の制約から、市区町村ごとに実績を積むことが必要で、お困りの生徒さんやご家族に任せていては、窓口での「うちでは事例がありません」との対応に阻まれることも少なくありません。
このようなgigaスクール構想でフォローされない分野への対応も期待されるところだと思います。 - 現場の負担を抑え、視覚障害分野の民間活力活用も視野に
今日の特別支援学校の先生方は、大変お忙しいと伺います。
正直、「こんなにiPadがたくさん入っても活用できる余裕がないよね」というのが率直な声かもしれません。
そのようなときに、やはり活用できるのは、視覚障害分野に詳しい専門業者さんだと思います。
技術的な支援をきちんと予算化し、現場の先生の負担を少なくすることも、積極的な選択肢ではないかと考えます。 - 教育実践においての「不易」の重要性
「全盲児童には触れる教育が大前提」
「社会・集団に児童を適用させることだけでなく、個別の対応で、社会参加を支援することが重要」
ICTを推進する立場の皆さんにも、この不易の考え方は引き続き持ち続けていただきたいところです。
三瓶さん、かまえです。
ご意見に、賛成です。日本では、何事でも、「上に立つもの」が、「一律化した案」を、提示しなければならないと考える、社会通念が定着していますね。文科省も、教育委員会も、「実はよく判らない、いろいろ試しながら、手探りで、ベストなものを探そう」と言うのは、無策と責められると、心配するのでしょう。
生徒の適性や障害を無視して、一律に決めるのは、生徒間、学校間に、大きな格差を生むことになるでしょう。心配です。
もし同じOSとするなら、MS Windowsが、無難だと思います。世界の企業で、広く使われているし、いろいろな障害を克服するためのアプリが、世界中で開発され、使えます。日本語化する必要が、あるかもしれませんが。
釜江常好先生、お世話になっております。
先生とクリエイトシステムの小出さんが、「UA携帯」としてアンドロイドのアクセシビリティーを研究し続けてこられたことをご存じの方は少ないですね。
点字への対応や、独自アプリの開発の可能性という観点では、アンドロイドの優位性が見逃せません。
今回のプロジェクトは、現役の先生方には、評判があまりよくないようです。
電子教科書の閲覧や、遠隔授業のツールとしてなど、限定的に考えれば、活用法もあると思うのですが…。
どの先生でも指導ができること、どの生徒さんにも状況に合わせて応用できることとなると、ハードルが高いのは容易に想像できます。
実践を共有するうえで参考になるサイトをクリップします。
視覚障害教育のICT化を促す会について|視覚障害教育のICT化を促す会|note
https://note.com/to_encourage_ict/n/n723e1d1bf81f
視覚障害教育ICT活用研修会(氏間研究室サイト内)
https://home.hiroshima-u.ac.jp/ujima/src/ict-shika.html
YamaguchiToshi(新潟大学) – YouTube
https://www.youtube.com/channel/UC4wvBXVb9daSD3doAxIwbtw
iPadのアクセシビリティ
https://www.youtube.com/watch?v=L0jO6QJcM1Y&t=3m20s
Chromebookのアクセシビリティ
https://www.youtube.com/watch?v=1sqKybdz_p4&t=2m25s
Ikuo Hirosawaさん(facebookより)
うちの学校では、iPad本体がやっと納入され、無線LANアクセスポイント工事が本日終了してるはずです。
しかし充電保管庫の納入は1月下旬で、取り付け工事は未定。光ケーブルの引き込み工事も同様と、グダグダです。教育委員会は2月1日、運用開始とか言ってますが、「無理!」と言ってやりたい。コロナ禍に便乗し、IT企業を儲けさせるための経済対策としか思えない。
今回の施策に期待を寄せる方への私の返信
私は、前職は埼玉県立盲学校、今は千葉県でフリーランスです。
おっしゃる通り、これまでデバイスがこれほど大規模に整備されたことはありませんでした。
現役の児童・生徒さんやご家族は大いに期待があると思います。
一方で、盲学校の元同僚やほかの学校の方に聞くと、先生方には歓迎されていません。
現場からお願いして実現したわけではなかったからです。
私は今、盲学校のICT教育に直接かかわる立場にいません。
もし、現場にいたら…。
やむに已まれず、書いたのが今回の文章です。
実際のところ、iPadに電子教科書を入れて、全盲の方が使いこなすのは、かなり難しい。
同じタブレットならば、アンドロイドのほうが可能性がありそうですが…。
それでもAppleの読み上げ機能と、UDブラウザがあったおかげで、一応盲学校にも整備したという体裁は整いました。
これがなければ、まったく蚊帳の外です。
以前、東京大学先端研の近藤先生が、研究の一環としてに取り組まれたiPadの盲学校への導入の検証のお手伝いをしたことを覚えています。
当時は、まだまだ使い物になるアプリがほとんどなかったのですが、地道にかかわりを続けてこられたことが、今日につながっていると思います。
これを機会に特別支援教育への「合理的配慮」のあり方を大いに話題にするいい機会かもしれません。